未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―24話・朝から小鳥も大騒ぎ―



―翌日―
「え、そうだったの?!」
「そうなんだよ、坊やたち。知らなかったの?」
昨日、黒髪の少年と銀髪の少年・リトラとその仲間達が戦っていた件で、
村中が持ちきりだった。
村に住むおばさんからその時の話を聞いて、プーレ達は驚く。
「仕事が終わって、寝ようかしらって思ってたところに、
いきなり10歳くらいの坊やとお嬢ちゃんが来てねぇ。
魔物が来たから、地下に逃げろって言うのよ。
もう、聞いた瞬間にものすごく怖くなってねぇ……。
あわてて旦那と子供達をたたき起こして、近くのお宅の地下室に逃げたんだよ。」
「うちもそうなのよ。
今思えば、魔物を見たわけでもないのに、
何であんなに怖くなったんだか分からないけどね。」
―それは、妖術でもかけられたんじゃないのか……?
ルビーがそう思ったが、他人の前なので誰にもテレパシーは飛ばさない。
「大変だったんだねー、おばさんたち。」
「まぁね。でも、みんな無事だったから良かったわよ。
魔物に襲われたら、こういう小さな村はひとたまりもないし。」
よそ者の開拓者が多いこの村は、
まだ発展途上のために冒険者などが立ち寄ることは少ない。
しいて戦える者と言えば、
治安維持のために派遣された少数のキアタル公爵の私兵くらいだ。
しかもこんな田舎に派遣される程度なので、戦闘能力は高が知れている。
自衛能力が低いのは小さな村の宿命のようなものだが、
その中でも、村を守る塀すら半端なここは特に低い。
「ほんと、大事にならなくて良かった。
坊や達は無事だった?」
「う、うん。平気だったよ。」
とりあえずプーレはそう応えたが、
現場に居合わせていたので、今思えば危なかったかもしれない。
もっとも、大丈夫だったのでいいと言えばいいのだが。
ただ、次回からは気をつけておかなければならないだろう。
「教えてくれてありがと〜。バイバーイ☆」
「ああ、気をつけるんだよ。」
昨夜の話を聞かせてくれたおばさん達に別れを告げ、
プーレ達は適当に村の中を歩き回る。
もっともここは田舎も田舎なので、目を引くようなものは特に見当たらない。
だが彼らの関心は、かつてここがグリモーの故郷だったことの方にある。
「ほんとにここ、1年くらい前は森だったんだ……よね?」
「しんじらんないよねぇ〜。」
今でこそ畑や草原が広がるこの地は、確かにかつてはキアタルで一番広い森だった。
だがその面影は、今やどこにも見受けられない。
無計画ともいえる焼畑で、全て燃え尽きてしまったのだから。
木工品や材木に加工することが出来る木や、
オリーブやシナモンなど、実験的に植えられた有用植物しかない。
しかも、最近になって植えたのかどれも苗や若木ばかり。
人工林になったとしても、当分ギルベザートの森林再生にはなりそうもない。
バロンやミシディアなどと違って、立派な建物などもないので、
余計にまばらな植物が寂しく見える。
「来た時から思ってたけど、ここって何にもないよね。」
「畑と草しかないもんネー。」
そういってパササが見た方向には、
畑として使われることなく放置されている土地がある。
森を焼いたはいいが、肝心の人手が足りないので畑に出来なかったらしい。
“こんな無駄を生むくらいなら、
森全域の焼畑なんて馬鹿なことをしなければよかったのにな……。”
ルビーが残念そうにつぶやくのも、もっともだ。
森を焼いたのならば、せめてその土地を有効活用するのが義理であるはずなのに、
無駄にするのはとんでもないことだ。
宿の様子を見る限り、入植者は順調に増えているのかもしれないが、
それでもやはり無計画に思える。
「すんでたみんなは、どこに行っちゃったんだろぉ?」
「さぁ……モーグリは、グリモー以外みんな死んじゃったみたいだけどね。」
どこを見回しても、モーグリが居そうな森は見えない。
グリモー自身がプーレと出会った時に言っていたように、
本当に彼以外は誰も生き残っていないのだろう。
悲しいし、寂しいことだとプーレは思う。
“喋ってるのもいいけどさ、
お前らこれからどうするわけ?”
しんみりとしたムードになりかけた時、
エメラルドが急にプーレ達を現実に引き戻す。
そう、肝心のことを忘れていたのだ。
「あ、わすれてタ!」
どうやら本気で忘れていたらしく、
大声で叫んだパササ以外の2人も、あっと小さく呟いた。
はぁ、とルビーがため息をつく。
“お前たち……。まぁ、今の所あてもないわけだからな。
こんなところじゃ、プーレの兄さんもいそうにないし、
まずは山を越えてダムシアンに行くのがいいだろう。”
『ダムシアン?』
ルビーが行き先として提案した地名を聞いて、
パササとエルンが首をかしげる。
どうやらどんな所か分かっていない様子の2人に、プーレは少し驚いた。
「え……2人とも知らないの?」
「ウン。どんなトコ?」
パササがわくわくとしながらプーレに詰め寄ると、
袋の中から、わざとおどろおどろしい声で飛ばされたテレパシーが聞こえてきた。
“死ぬほど暑〜〜〜〜い、ダムシアン砂漠があるところ。
ここよりももっと、暑〜〜〜〜いぞ。”
顔があったら、絶対にニヤニヤとしていそうな語り口だ。
ダムシアンが暑いと聞いたパササとエルンは、
エメラルドの狙い通りにショックを受ける。
「えぇ〜?!そ、そんな暑いところ、いきたくないよぉ……。」
「ボ、ボクだってぜ〜〜ったいヤダ!!他のところナイの?!」
“残念だが、いったんあそこに出ないと、
他のところにはいけないな……。”
極寒の地などの異名をとるグレイシャー島育ちの2人にとって、
灼熱の砂漠などはまさにこの世の地獄。
ここでさえ暑いと感じているのだ。
もう死んじゃう〜、などと叫びたくなるところに違いない。
ルビーも分かっているので、その声は哀れんでいるように聞こえる。
「……ぼくもやだ。
あんな暑いところ、2回も行きたくない……。」
プーレも、げっそりとしてぼやく。
2人ほど寒い土地でないとはいえ、冷涼なファブール育ちに砂漠はつらい。
だが、後半の言葉にパササは首をかしげる。
何故、プーレがダムシアンの暑さを知っているのだろう。
「え、2回ってどういうコトー?」
「森を出て来た時に、1回通ったことがあるんだ。
砂漠のほうには行かなかったけど……すっごく暑かったっけ。
あんなところ、ほんとにもう2度と行きたくないって思ってたのにー……。」
プーレの脳裏に、暑さでふらふらになって倒れかけたと言う嫌な思い出がよみがえる。
あの時、親切な大人のメスチョコボに助けてもらえなかったら、
今頃自分はここにいなかっただろう。
“確かに、陸路でファブールからこっちの大陸に来るには、
ダムシアンを通るしかないからな。”
“俺たち石だから、暑〜いとか寒〜いとか、
不快感としてはキャッチしないけどな〜。”
「いいな〜……暑いとか寒いとかわかんないって。」
エメラルドののんきな言葉を、プーレはうらやましいと思う。
“感じようとしなければ、分からないしな……。”
「生きてないのに、どうやって分かるんだヨ……。」
パササがもっともな疑問を漏らす。
感じようとしなければ分からないと言う言葉の意味も、よくわからない。
“うーん、説明は難しいな。敵の気配とかを探るようなもんさ。
感じようと思わないと、全然感じられないんだ。
お前たちと違って、宝石は耳も目もないし。
景色も温度も音も、みんな心で感じてるんだよ。”
「心??……よくわかんないけど、とにかくわかるんだぁ。」
おそらく、これでも分かりやすく説明しようとしたのだろう。
しかしエルンにもパササにも、
頭のいいプーレにもよくわからない。
元々、生き物と無機物という、種族以上に決定的な差があるのだから、
感覚の違いは当たり前のことだろう。
考えても分からないことは仕方がない。
大きくなって、もっと色々な事が分かるようになったら、分かるかもしれない。
プーレはそう思考を切り替えて、
ルビーの提案どおり、次の目的地をダムシアンに決めた。
「とにかく。暑いけど……、
ぼくだって行きたくないけど……ダムシアンに行くしかないよね。
ところで、山ってどこの山?」
“確か、ここから南の方だな。
森はなくなっても、山はそう簡単に消えないだろう。
船か何かがあれば、それに越したことはないが……。”
もっとも、一般の船を使っての船旅は、場合によっては得ではない。
運が悪いと、魔物を倒して補給ということがやりにくいので、
事前に船にある程度食料を持ち込むからだ。
そのときに、馬鹿にならない量のギルが消える。
しかし、特に中・長距離の船旅なら、
実際には魔物が必ずといっていいほど出るので、実はあまり困らないことも多い。
最近は魔物が増えているので、なおさらだ。
「えー、船があるとか知らないノー?」
“知るわけないだろー?
こんな出来立てほやほやで湯気出てる国の交通なんてさ。”
パササがぶつくさ文句を言うが、
エメラルドにはどこ吹く風。
実際、噂が好きな彼でも、
瞬時に世界中の情報をキャッチできるわけはないので、
言い草はともかく内容はもっともだ。
「ねぇ、地図を見たらさー……。
こんなに山がつづいてるんだけど。う〜、やだなぁ……。」
プーレがおもむろに開いていたダムシアンとキアタルの地図には、
キアタルとダムシアンを隔てる長い山脈が描かれている。
のぞきこんだエルンも、けっこう嫌そうに顔をしかめた。
「ほんとだぁ、いっぱいあるよぉ〜!」
「ホントに?!」
「うん……。」
そういえば、グリモーと会ったのも山の中だった気がする。
あの時はこっち側ではなかったので、
ここまで遠くなかったかもしれないが。
「ねぇ、チョコボのお兄さんとかに乗っけてもらえないのかなぁ〜?」
「えー……どうだろ。
こんなところに、チョコボ屋さんとかあるのかな。
……ていうか、ぼくは乗ってもしょうがないと思うけど。」
いくら姿は人間でも、チョコボがチョコボに乗るというのも変な話だ。
そう思ったプーレは、複雑そうな顔をしている。
「おんぶだと思えばいいんだよぉ。」
「チョコボはおんぶしないもん……無理だって。」
エルンはそう考えるように促すが、
チョコボはおんぶどころか、首根っこをくわえる抱っこもしない。
基本的に、運んであげることはあっても、
誰かに運んでもらうという発想に乏しいのだ。
そういうわけで、その提案を実質プーレは相手にしなかったが、
このエルンの発言で、ルビーは何かひらめいた。
“貸しチョコボか……。
もし町が近くにあれば、そこからチョコボ車に乗れるかもしれないな。”
「チョコボ車―?」
「何それぇ〜。」
“普通は直接乗るんだが、中には乗れない人もいるし、たくさん運べないだろ?
だから、チョコボに車を引かせて、その車に人が乗ったり荷物を載せたりするんだ。
バロンとかミシディアでなら、お前達も見たことあるんじゃないのか?”
「あ、あれかぁ〜。」
ようやく合点がいって、エルンがうんうんとうなずく。
パササも納得してぽんと手を打った。
「知らなかったの?」
「だって、プーレみたいにものしりじゃないモン……。」
意外そうなプーレの言葉に、不機嫌そうにパササが答える。
物知りなプーレがうらやましいと、
素直すぎるほど素直な目が語っていた。
「あ、2人ともグレイシャー島の外のこと、
あんまり知らないもんね……。」
いっそ恨めしそうなパササの目にたじろいで、
プーレは苦笑いのような変な笑い方しか出来ない。
「そうだよぉ〜。」
「だって、チョコボだって島を出るまで見たことなかったしサー。」
“やーい、田舎もんー。”
ドサクサ紛れに口を挟んできたエメラルドの失礼なセリフは、
2人との話に夢中のはずのパササの耳にしっかりつかまった。
あまり迫力はないながらも、
エメラルドが入っている袋をギンッと大きな目でにらみつける。
「うっさい!売り飛ばすゾー!!」
“あ、やめてよして。”
パササの脅迫に、言葉とは裏腹に全く動じない声でエメラルドが返す。
あいからわずのおちゃらけた態度に、
ルビーはいつものため息に似た声しか出てこなかった。
“だったらからかうのをやめればいいだろう、エメラルド……。”
同胞で付き合いも長いだけに、
言ったところで今さら直らないと知っていても、ついそういってしまう。
「は〜ぁ……。もー、下らないけんかはやめてよ。
はやく町に行って、さっさとダムシアンに行かなきゃいけないんだから……。
で……町ってどこ?」
“聞けば分かるだろー?たぶん。”
「たぶんかヨ!」
パササが素早く大声でつっこみを入れるが、エメラルドは涼しい顔だ。
もちろん態度がそう見えるだけだが。


―タルヴェアの町―
それから村人に近くの町を教えてもらったプーレ達は、
山脈に近いキアタル唯一の町・タルヴェアにやってきた。
ここにはルビーが言ったチョコボ車が、
ダムシアンの国境の町まで定期便として出ているという。
そこで、さっそくチョコボ車屋の受付で、
いつの出発か聞いてみることにした。
「おじさん、チョコボ車はいつ乗れるの?」
「そうだなぁ、明日の昼前にはこっちに来るから、
午後にはもう乗れるよ。」
「わかった。おじさん、ありがとう!」
元気よくお礼を言ってから、プーレは1人宿屋へ急ぐ。
チョコボ車に限らず、定期便の類はその日のうちにすぐ乗れるとは限らないので、
ルビーがあらかじめ宿屋を探しておくようにと助言したのだ。
パササとエルンが、今頃見つけて宿屋の前で待っているだろう。
“え〜っと、まず次の角を左に曲がったところな。”
―わかった。
袋の中のエメラルドが、ルビーからのテレパシーを伝える。
宿までの具体的な道筋のイメージが、彼に伝えられているのだ。
プーレはそれを心の声で返すと、
角を曲がった後もエメラルドのナビ通りに進んでいく。
すると10分くらいで、宿屋に到着した。
宿の前にいた2人が、プーレに気がついて手を振っていたので、
すぐに見つけられたのだ。
「あ、プーレ来たぁ〜!」
「チョコボ車っていつ乗れるノー?」
「明日だって。だから、入って泊まらなきゃね。」
元々、今日中にはダムシアンの方に出発できないかもしれないと知っていたので、
大して驚くこともなく、2人はわかったとうなずいた。

そして翌日の午後。
プーレ達は、目的地を思うとあまり気が進まなかったものの、
チョコボ車に乗ってダムシアンの国境を目指すことになったのだった。



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え〜、だんだん恒例となってきた2ヶ月オーバーです(撲殺
しかも、大して話が進んでおりません。
だから逆に書く方もやる気が出ないのかもしれません。
さすがに3ヶ月はいやなので、後半はほとんど一気に書きました。